2018年8月17日(金)
ついにこの日がやってきた。病院モードに突入の日。手術のための2週間の入院の日々が、ついに今日から始まる。
北海道にいるときは、本当にこの有明のことを忘れ去るくらい、楽しい日々だった。有明は悪くないんだけどさ、やっぱりね。病院に一歩足を踏み入れると、そこは何とも言えない別世界が広がっているんだよなぁ。私が「患者」に切り替わる世界…。
昨夜は午前2時にベッドに入り、すぐに眠れたようでそうでもなくて。次男の部活が7時半からなので、私より先に出かける。しばらく見送り出来ないかと思うと少し寂しい。ハイタッチして見送った。
それからも怒涛の時間。お風呂に入り髪を洗い、洗濯し、子どもたちの晩御飯にするためのチリコンカンをホットクックに仕込む。デバイス系の充電機器などを準備して、ゴミ袋を3つ捨ててきた。この期に及んで、ゴミ袋3袋である。今までどれだけさぼっていたか…。我ながらあきれる。
よし、いよいよ家を出るぞ!
鍵をかけて数メートル歩きだしたとき、あ!
そう言えば呼吸の練習の器具、忘れてた!
急いで部屋に取りに戻る。
ああ、どこまでドジでバタバタなんだ自分…
暑いし、荷物も多いので、今日はタクベルを呼んで最寄り駅までタクシーを使った。いい運転手さんで良かった。これから入院するんです!大腸がんの手術です、って話して。おじさんは少し驚いていたけど、話を聞いてくれたので、大腸内視鏡検査で見つかったんですよと話した。運転手さんはおしりカメラ未経験だった。もちろん強くオススメした。
電車に乗り込み、病院のある国際展示場前駅に向かう。
いざ出陣!と言う気持ち。まさに。
新しい世界、私の知らない未知の世界に入り込むのは、楽しみではある。世界を広げる第1歩。行ってやろうじゃないの!
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1階の入院受付窓口で手続きをする。私と同じように、ゴロゴロバッグを持って、今日から入院のひとたちがたくさんいる。4つある窓口は埋まっている。各種書類(パジャマ貸し出しの紙、差額ベッドの人はその承諾書など)にサインをし、その足で同じ1階の採血の部屋に行く。今日も6つくらいのシリンダーに採血された。
そしていよいよ、初めて足を踏み入れる入院用のエレベータへ。
757の部屋はナースセンターのすぐ近くだった。4人部屋で、奥はHさん。漏れ伝え聞いた話によると、ストーマを戻す手術のために入院しているらしい。まだ40代に見える。向かいはおばあちゃん。漏れ伝え聞いた話によると、明日退院らしい。斜め前がNさん、今日同じタイミングで入院した50代くらいの女性。漏れ伝えい聞いた話によると、大腸と肝臓を切る手術をするらしく、ちょっと大変だとか…。そうだよなぁ、いろんな状態の人が入院している。共通しているのはがんということ。消化器外科の入院病棟が7階というわけだ。
ここはがんの専門病院だから、どこに出来たがんかによって、階数が違ってくる。エレベータを境に東病棟と西病棟に分かれていて、わたしの7階は、東病棟が大腸(下部消化管)、西病棟が胃と食道(上部消化管)というふうに分類されている。近年は胃がんが減って大腸がんが増えているから、西病棟に大腸の人が入ることも多くなったと聞いた。
お見舞いの人が結構出入りしていて、にぎやかな時間帯もある。静かなときもある。うん、居心地はなかなか悪くない。1階2階の検査フロア同様、明るいインテリアなのが効いているのかな。
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12時半ごろに待望のランチが到着!
プラスチックのふたを開けると、まだ温かいごはんが!そして味付けがやさしくておいしいおかずにビックリ。これなら毎日でもいい。カレイの揚げ煮がとてもいい。こんにゃくと昆布の煮たのとか、なによりお吸い物のだしがとてもいい。カリフラワーのマリネみたいなサラダも美味しい。昔の私なら味付けが物足りないかもしれないけれど、今はちょうどいいか感じ。このくらい薄味だと、だしの味わいがしっかり感じられて、しみじみと美味しい…
病院での楽しみが一つ増えたわ♪
食べ終わってしばらくして、レントゲン検査で呼ばれた。血液に続き本日二つ目の検査。普通の胸のと、あお向け寝でおなかを上から映すのをした。
それから麻酔科の先生とマンツーマンで話をした。麻酔とは何ぞやという資料を見ながら、起こりうるリスクの話。全身麻酔だから、全身の筋肉をゆるめるんだそうで、そうすると呼吸も止まるから、のどに管を入れて人工呼吸で管理するのだそう。だから術後はのどの違和感があるんだそう。心臓は止めたら死んじゃうので止めないけれど、呼吸って止まるんだね…。いろいろと勉強になります。
女性の先生だった。わかりやすい説明だったし、この先生も感じがいい。受付の方といい、血液検査の方といい、ここのスタッフの方はみなさん感じがよくて素敵ですね、と思わずこの先生に言った。先生は、あらそうですか!ととても明るい表情になった。わたしは、素敵なことは素敵ですと伝えたいタチなので、そんなことで喜んでいただけると嬉しい。
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そうこうしているうちに仙台から夫が到着。14時頃だろうか。15時過ぎると言っていたのに、早かったね。少し雑談をしていると、また呼ばれて、おなかの印付けをした。ストーマ、つまり人工肛門を設置する位置を事前に決めるのである。上下の2か所にマークして、上のほうはかがんだときにしわになるからイマイチと言っていた。ベルトを通常する人なんかは、ベルトが当たらない位置などに定めるらしい。紫の消えにくいペンで印をつけたけど、シャワーの際など、消えないように気を付けるようにと言われた。最後に印の写真を撮り、終わった。
部屋に戻ってまた少し雑談をしていると、今度は手術の説明ということで担当の先生に呼ばれた。麻酔科の先生と話したのと同じ部屋で、夫と二人で聞いた。それはそれはわかりやすい、詳しくて長い説明だった。
厳密に言うと、主治医で執刀医のF先生はこの日は非番で、同じチームの若手のT先生が説明をしてくれたのだった。私の患部の写真やエコーやらMRIやらCTやらの写真を見て、説明してくれた。プリントアウトされた紙の資料も利用して、図解でよくよく説明してくれた。お医者さんって理系のひとなのに、すごくコミュ力高くてびっくり!こういうお医者さんばかりだといいね。夫の質問にもしっかり答えてくれた(なぜか患者本人より、家族のほうが質問を多くするんですな)。
この説明によりわかったことは、がんのステージの決め方。
ステージっていうのは
1.腫瘍の浸潤 (しんじゅん、と読む。がんが、身体のどのくらいの深さまで入りこんでいるか)
2.リンパ節転移(がんがリンパ節に転移しているかどうか)
3.多臓器転移(読んで字のごとく。原因となるがん:原発巣が大腸であっても、転移で肝臓や肺などに転移しているかどうか)
の有無をトータルして決めるんだそうだ。
私は2.3はなくて、1は第3層目の筋層に達してるから決して浅くはないけれど、これだとステージ1というんだそうだ。なるほどね。
リンパ節転移については、いまあらゆる検査で見た感じは転移はないけれど、手術で組織を取ってみて、取ったリンパを調べてはじめて、転移はないね、ということが正式に言えるらしい。今の時点でない人は、取ってみても大概ないことが多いらしいけど、100パーセントではないと。そうだよね、何事も100パーセントはないからね。ちなみに手術後1か月ほどでがん組織の生研の結果がようやく出るんだって。
でも今はそんな先のことより、手術後の回復をまず第一に考えてと言われた。化学療法実施の可能性があるかないかも、まだ先の話だと。放射線治療はたぶんこれから先の段階ではないだろうとのこと。そうかぁ。でもまだ化学療法は可能性があるのだなぁ…。
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そしてストーマのこと。肛門まで4センチ未満のところにがんがある人は、必ずストーマにすると。永久の場合も一時的の場合もあるけど、私は5センチだそうで、ギリギリ4センチ超えてるんだけど、一時的ストーマにするとのこと。肛門の周りの神経は複雑で、そこを手術するわけだから、やはり手術としては簡単ではないらしい。そして一時的ストーマを戻すのは術後から3か月後くらいで、入院期間は1週間くらいの手術だという。ストーマ閉鎖後に起こる頻便傾向は、ストーマ戻しても何年たっても変わらないんだと言われる。頻尿は聞くけど頻便ってあまり効かないぞ。自分がそれになるのか。うーん、それはちょっと結構かなりショックだけれども、生きるためにはそんなこと言ってられないしね。
とにかく、よーくよーく納得できる素晴らしい説明であった。ダヴィンチというロボット手術も導入されているんだって。このあいだ見た嵐の二宮君が出てた「ブラックペアン」という医療ドラマと同じだね。でもここでは全国からエキスパートが集まっていて症例も多く、ダヴィンチより人の手のほうがいいと先生自ら言っていた。私が言うのもなんですけれど、と少し照れながらも、その言葉には自信が感じられてとても良かった。腕に自信のある先生にやってもらいたいからね。堂々と技術を誇って欲しいからね。
この先生は地方のご出身だったけど、やはり、全国のエキスパートが集まるこの病院でやってみたかったんだそう。同じような志の先生が、全国から集まるんだそうです。
私からの質問は、46歳は若いほうですよね、ということ。確かに若いほうだと言われた。そっか、これだけがん患者の多い病院でも、私は若いほうに入るんだね…。それで、50歳以下の女性には婦人科の関連も調べたほうがいいということで、この日このあと婦人科で子宮と卵巣のがん検診を受けたのであった。これは聞いてなかったけれど。
幸い、すぐに診てもらえて、「特に所見は見当たらないから、手術がんばってね」と婦人科の女医さんに励まされ、思わずうるっときた。
私からの先生へのもう一つの質問。
このがんは去年の会社の検診では見つからなかったけど、どういうことでしょう?
これには、去年はあっても小さかったかもしれないと。で、来年まで気づかなければどうなっていたんでしょうと聞くと、かなり大きくなっていたでしょうねと言われた。かなり、ですか…。若いと進行も早いっていうしね…。今回もし気づかなかったことを想像すると、本当に怖くなる。体を切るのはいやだけど、いま見つかったことは本当にラッキーなのである、と改めて強く思う次第。おしりカメラ大事!!!
この先生も本当におだやかで頭がよさそうで。こういう先生にどんどん活躍していただきたい。かれこれ1時間くらい話していたかもしれない。こんなに時間をかけてくれることに感激した。さすががんの専門病院、有明だからなんだろうか。がんの手術前には、みんなこのくらい詳しい説明を受けるものなのかな。
手術までの日程がスピーディで驚いたことについても聞いたら、ここはなるべく待たせない方針だと。やはりここにしてよかったと、とみに思う。まぁ、まだ手術前だから、今のところはね…という但し付きだけど。全体的にここまでの印象はものすごくいい。
山のような承諾書(輸血のとか、研究に参加することに同意するかとか)にサインをした。承諾書には怖いことも書かれているから、慎重にサインしたいけれど、サインしないことにはコトが始まらないのでね…。
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そのあとベッドに戻ったら、今度は薬の説明のT薬剤師がやってきた。薬の一覧表を持って。これも写真付き日付別に分類されたカラーの資料でとてもわかりやすい。薬といってもほとんど点滴なのである。1本6時間かけて24時間で4本、それを2日半だと…。食べ物の代わりに点滴だものねぇ、ずっとぶらさがっているのだね、点滴が。だからここのみなさんは、点滴しながら歩いているのだね。私もそんな生活に突入するのか…まだ信じられない。
けど、もう、ここは病院で入院病室で、私は患者。避けられない事実なのである。なんだか現実と非現実の間を行ったり来たりしている気分。先生方の話を聞いているときはとても客観的な気分で、記者の取材の気分で聞いてしまうのだけれど、これはまぎれもなく私自身の体の中でこれから起こることなのである。なんだかすごく変な感覚なのである。
先生の説明を聞いていると、臓器を切ることの影響がどれだけ大きいか。想像するだけで恐ろしくなる。間違いなく今までの、今日いる自分とは違う自分の体になっているということが、果たしてどういうことなのか。軽くとらえている場合じゃない。いや軽くとらえてはいないけれど、そんなに明るくもいられない未来だよなぁ。なんて実は結構思っている。客観視しているとはいえ、実はやっぱり不安は大きいよ。社会復帰がいつどんな風に出来るのかなぁ。でも、とにかくやってみるしかないんだよね。
2週間の入院も、早い人はもっと早いとか。痛み止めの点滴は、自分の痛みに応じてボタンを押したら注入されるというけど、その痛みも人によって違うとか。そりゃあわかっているけれど、自分がどのタイプなのか未知なのは結構不安ではある。身体はひとりひとり違うから、もう、本当にやってみるまで誰もわからないのだ。
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晩御飯の前に夫と二人で、1Fと5Fでお買い物をした。手術用のパンツとか、ストーマ用のハサミとかね。楽しいお買い物とは言い難いが。そういえば明日は1Fのタリーズでコーヒー講座があるから、夫と二人で出ようかなと。
部屋に帰ったらもう夕食が置いてあって、夫を見送ってから一人で食べた。今回も魚だが、相変わらずお吸い物が美味しい。
食べ終わったころ、夕日がきれいに見えるわよ!と部屋のみんなが言うので窓辺に行ってみたら、確かに都会的なきれいなグラデーションの空であった。思わず窓を少し開けてもらって撮影した。Nさんによると反対側ではTDLの花火が見えるらしい。そういう思いがけない楽しみもあるのね、ここは。
そして歯磨きして、いま、サロンスペースでパソコンでこれを書いている。部屋はどうも薄暗くて良くない。私の居場所は、差額ベッド代なしの、通路側の窓がないエリア。差額一日5000円で窓側も選べたけど、2週間で5000円か…結構なお値段。ここは我慢して、高級温泉旅館代に回したいから(笑)
点滴もつけてない元気な患者のうちは、明るくて広々としたサロンスペースにいる時間を多くしよう。明日からはポケットWifiも届くし、もっと快適にいろいろやれそう。
でも消灯は9時、完全消灯は9時半なんだよね…。早寝早起き。長い一日だったなぁ。今夜はよく眠れるといいな。今日は朝家を出る前にシャワーしたから、シャワーは明日にしよう。