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そして、わたしは楽器になる…がん患者はなぜ第九を歌いたくなるのか?【その1:サントリー一万人の第九当選から初回練習参加まで】

直腸癌になり、がん研有明病院で手術を受ける中でわかったことがあった。
それは、病院内に貼ってあったポスターで知った。
世の中には、

がん患者さんが歌う第九チャリティコンサート」というものがあるということ。

第九と言えば…
日本では年末の風物詩的に演奏される、ベートーヴェンの交響曲第9番合唱付き、ですよね。有名なシンフォニーですから、そりゃあ私だってサワリの部分やサビの部分はわかります。でも、その程度で。
どちらかというと私にとってなじみ深いベートーヴェンは運命だし田園だし(普通過ぎですね…)

第九って…
そもそもなぜにオーケストラに合唱がつくのかしら?
いったいどんな歌詞を歌ってるのかしら?
っていうか、なぜに、がん患者さんが第九なのかしら???

そんな疑問だらけでポスターを見つめるうちに、
せっかく?私もがん患者の仲間入りをしたのだし、音楽好きだし、オーケストラと共演なんてこんなことでもないと出来ないよね?
…という。
はい、もう、好奇心の赴くままに…私の心は「がん患者の第九」に向かっていました。

それで早速病院の事務局に問い合わせたのだけれど、毎年恒例というわけでもないんだそうで。参加募集は病院のウェブサイト上で行われるけれど、女性パートは毎回大人気ですぐ埋まるけど、男性パートは病院内で患者さんをスカウトして歩かなきゃ足りないくらい(笑)とのことで。なるほどですね…意外と狭き門なのかもしれない。

そもそも最近は募集がなさそう。淋しい。せっかくやる気だったのにー。

…と、そんな私に朗報が!
なんと毎年恒例の「サントリー一万人の第九」なるコンサートが、今年も大阪城ホールを舞台に行われると。そしてその募集開始が間もなく始まるよ!と(7月ごろの話です)。

この情報は、がん関係の友達とは違うところから流れてきたのだけれど、気持ちは第九♪だった私には本当にタイムリーで。喜び勇んで、抽選に申し込みました。そう、全国各地から1万人が集うとはいえ、これまた激しい倍率の中、抽選に通らないと出場機会が与えられないのですって。
恐るべし、第九…。

もうこのあたりですでに、第九の末恐ろしい人気っぷりに驚くばかりなのですが。

そしてなんとビギナーズラックかわかりませんが、私と中2の次男、二人で申し込んで無事に当選したんですよ。
ええ、次男は完全に私の付き添い役として、本人はかなりぶぅぶぅ言いながらの参加ですがね。ママのサポートという意味で、なんとか納得してくれまして(かなり力づくの納得ともいう…汗)。

かくして、私と次男の第九レッスン通いが8月末からスタートしました。

レッスンは全国各地で行われ、初心者(3回目までの人)は全12回(ほぼ週1ペース)のうち、2回以上休んだら出場権ナシ!というなかなかに厳しいもの。私と次男は、築地Aという、浜離宮朝日ホールで行われる金曜夜18時半~20時半のレッスンなのですが、なんとなんと、初回の日程を思いっきり勘違いしてしまい…
初回を欠席してしまうという失態を犯してしまい…

あれはショックでしたね…。初回の初回を飛ばすなんて!
焦り感、半端なかったです。
楽譜や練習CDも、その会場で初回に購入するのが通常です。
2回しか休めないのに、すでに1回休むなんて…

でも落ち込んでいても時は戻らない!
あわててメルカリで練習CDを購入し、楽譜を購入し、動画をググって第九を見てみた。


するとですね。当たり前ですけど、歌詞がドイツ語なんですよね。
しかも、聞いたことがあるのはサビだけ。
「晴れたる青空 漂う雲よ~」のくだりしか、わかってないんですよね。
こんなんで、大丈夫か私たち…

そして迎えた2回目のレッスン。
私たちにとっては、初めてのレッスン。

会場には100人くらいは入ってたでしょうか。パートごとに分かれ、私はソプラノ、次男はテノール。たまたま隣のブロックだったから、列を挟んで隣に座る。

ステージ上にはグランドピアノ。
先生がおもむろに登場し、よくある発声練習が始まって…
まずは、譜面読みであった。

ドイツ語の歌詞をね、楽譜見ながら読んでいくのだけれど…これがもう、初見の私には、正直、お経にしか聞こえないわけですよ。ほんとに、これ、覚えるとしたらお経の感覚だよ…
いや逆に言うと私はお経は覚えられたのだから、第九だってきっと大丈夫に違いない!と、謎の「仏教と第九の共通項」を無理に作り出し(笑)
なんとか、口を動かしているのでした。

そしてその日、私を驚かせたのはもう一つあり。
ソプラノの音がなんて高いの!!!

よく聞くフレーズの部分は前回すでにやったようで、この2回目の時には、知らないフレーズ(15ページ、Gのところ、キュッセのところね)を練習したわけですが…
ここのところの最後の盛り上がるところがね、シュティート フォール ゴーーーット♪のところがね、高いほうのソの音なのね。

これは無理…
と思っていたら、隣のお姉さんがやすやすと美しくソの音を響かせているの!!!
もうね、隣で聞いててうっとりするような歌声でね。ソの音をね。

あまりに素晴らしくて後ほどお声がけしたところ、すでに3回目のご参加だそうで、もうベテランさんでありまして。どうしたらそのようなお声が?と聞くと、とにかくCDを聞きまくって覚えました!とおっしゃる。
大丈夫ですよー、まだまだ先が長いですから、出るようになりますよ!との励ましも頂き、ああ、こういう参加者同士の交流がまた素敵なんだなぁ、と実感しましたね。

でもやっぱり私たちは1回分遅れをとっている!という気持ちには変わりなく。
その日から練習CDはパソコンとスマホに取り込んで、いつでも聞ける態勢にし、朝いちばんにはリビングで「あれくさ、第九をかけて」と言って毎日流すことを日課にした。

家でハイトーンの大音量でソの音を練習するのはさすがに苦情が来るレベルなので(笑)そこは押さえつつ(でもときどきやってます)。

週1回の練習で思い切り声を出して歌うことが、本当に本当に楽しみになってきて。
金曜日が待ち遠しくなるほどに、第九レッスンにはまっていきました…。