新宿のK’s Cinemaと言うところに映画を見に行ってきた。
映画、しかも新宿。
これは今の私には決して簡単なことではない。が、東京では今そこでしか上映されていないから、行くしかないのじゃ!
見た映画は
「がんになる前に知っておくこと」
少し前にSNSで友達が教えてくれてその存在は知ってたけれども、いつからだろう…と思ったもののカレンダーに入力まではしていなかった。直接的に、具体的に教えてくれたのは、なんと高2の長男からのLINE!
「これ見に行けばいいと思います」となぜか敬語(笑)
それにしても、なぜに長男が?と思ったら、どうやら授業の雑談の中で先生から紹介されたらしい。その日はちょうど池江璃花子選手のニュースの翌日で、その話題からがんの話に発展し、なんでも、その先生はご家族をガンで亡くされたこともあり映画館に足を運んだんだそう。そのうえで、強力に生徒たちに映画をオススメしたらしい。
それをすかさず私に教えてくれた長男。グッジョブ!
早速調べてみると上映されているのは全国で数カ所。そして新宿では午前10時の回のみの上映であった。ということで、新宿まで久しぶりに出かけることにした。
この映画館は初めてだった。大塚家具の建物のそばのビルの3階にあり、座席が85席くらいのミニシアターだ。自主制作的な映画の予告編がいくつも続き、それはどれも魅力的だった。
いよいよ本編が始まると、1人の可愛い女優さん(鳴神綾香さん)が自らの乳がん疑惑体験を語り、それから彼女が語り部となって自分のがんに対する疑問をいろんな専門家に聞いて歩く、という至極シンプルな内容であった。がんの3大標準治療(手術、放射線、抗がん剤)のそれぞれの専門医や、患者サポートに関わる人々、そしてがんサバイバーたち計15人に次々にインタビューをしていく。
なるほどこういう映画もあるんだな、というか、がんの伝え方としてこういうやり方もあるんだな…というのが率直な感想。私にとってはとても新鮮だった。
だって、言うなれば本当にインタビューをつないでいるだけで、映像的に映えるとかドラマチックとかの要素はあまりなくって(すいませんこんな感想…)。でも、そうじゃなくて。語っている内容にこそ意味がある。語り手の表情に、声に。そこから伝わってくる感情、思いにこそ、内容があるのだ。これは、本で読むのとは全然違う。訴えかけてくるもののパワーが、活字とは全然違うのね。
内容としては、一通りのがんについての知識を、様々な角度から、初めての人にもわかりやすく伝えている、と思う。思う、というのは、もう私はすでに初めての人ではなくて、かなり知識を蓄えた上で見たから、「へぇー」というより、「そうそう、そうだよね」とうなずきながら確認する感じ。いわゆる、ターゲットにしている視聴者像とは違うからね(がんになる前じゃない人ですからね、わたし)。本当にがんになる前の人が見たときには、この映画はどんな風に伝わるのかな…とちょっと知りたくなった。きっと、聞き手の鳴神さんの素直な視線や反応が、初めての人の気持ちをとてもよく代弁していたから、初めてがんを学ぶ人たちは自分を彼女になぞらえ、スーッと、話を頭に入れることが出来たのではないかと思う。
どの話も印象的だったんだけど(3つの標準治療の違いなど、特にわたしが未経験の放射線と抗がん剤の話はとても勉強になった!)、最も印象に残ったのは、私が前から気になっていたマギーズ東京のお話。
がん研有明病院でパンフレットを見て、そのあまりにおしゃれな様子に、いったいこれはどういう場所なんだろう?って興味深々だった施設が、マギーズ東京だ。ここの代表の秋山さんのお話や、そこで支援に携わっている看護師・岩城さんのお話。そしてそれを立ち上げた人の1人であり、元日テレ記者で乳がんサバイバーの鈴木さんの話。この辺りが強く印象に残った。
あと、湘南記念病院のピアサポートという仕組み。病院内に相談窓口があるケースは多いけど、ここは、がん経験者が相談相手になるんだそうで。入院・通院問わず、患者さんのよきアドバイザーになっているんだそうだ。
そう、それは本当にすごくいいと思う。がんになったら、心の中になんともいえないモヤモヤが発生して、そのモヤモヤがなんだかわからなくて、それを誰に言えばいいかもわからなかったりするんだよね。あまりに近い人に話したら心配かけるし、でも、心の中のモヤモヤはどこかに吐き出したい…。そんな思いは、どんな患者にもあると思う。
私もそうだったし。
病院で出会ったほかの患者さんも、そうだったと思う。患者はみんな、多かれ少なかれ、話をしたいんだよね。聞いて欲しいんだよね。だから病棟で出会ったひとたちにちょっと話しかけたら、1が10くらいになって話が返ってくることはままあった(笑)。みんな、吐き出したい思いを、たくさん抱えているんだなぁ…ってわかったよ。
私の場合は、日記やブログに書くことである程度気持ちを消化していたけど、ブログを書く習慣がなかったり、またその発想もなかったりすると、その思いはどこにやればいいのだろう?ひとり悶々とすることほど、カラダに悪いことはない。(それは、がんでも、がんじゃなくてもだけれどね)
そんな人たちを受け止める場所がピアサポートであったり病院の相談窓口であったりマギーズ東京であったりするわけで。とても大事な場所なのに、渦中にいる患者さんそして家族の方々は、そんな場所に頼ることまで思いが廻らない場合も多いのかも知れない。目の前の現実にいっぱいいっぱいで、自分の思いがどうとか、言ってられない局面は多いから。でもふっと一人になったりすると、えも言われぬ思いが、こみあげてくるんだな…。
だからこの映画の後半、いわば最も印象に残りやすいパートで、サポート体制の話題が登場したのはすごく良かったと思った。相談する場所がある、1人じゃないんだよってことを、最後にしっかり印象付けてくれた。
この映画を見る人はどんな人が多いのかな。
イメージとしては、身近な人ががんになったひと。自分がいつかなるんじゃないかって不安なひと。わたしみたいに、もう発症した人も結構見ているかなぁ。
いずれにせよ、がんイコール死、不治の病ではなく、正しい知識を持って向き合えば怖い病気ではないよ!と言うこと。それは、どんな立場の人にもとてもよく伝わったんじゃないかなと思う。2時間ほどある長尺の映画だけど、つくりの誠実さ、まっすぐさが伝わってきて、見るほうもまっすぐに真剣に眠ることなく(笑)がんに2時間びっしり集中して聞くことができる映画だった。
帰り際、出口付近にプロデューサーの上原さんがいらしたので、感想をお伝えした。作り手の思いが伝わりました、私もがんサバイバーとしてブログを通してたくさんの人にがんのことを伝えたいんです!と言う話をした。そうだ、せっかくだから一緒に写真撮らせてもらえば良かった…。
そして受付で1冊1000円の小冊子を購入した。本編では盛り込めなかったインタビューの内容がぐっと詰まっている本だそうで、これは買わないわけにはいかないでしょう!ということで即決。で、読んでみたら、映画本編以上にこの本は役立つかも!
やはり文字情報として残るのは貴重。本編のインタビューで話したことプラスアルファの情報が、一部図解入りで載っていたりするし。私が持っているどんながん本とも違う、総合的に見ても素晴らしい本だと思う。映画をみて、この本で復習+知識の補強をしたら、もうバッチリ。
この映画を見たことで、私が出来ることは何か。私の役割とは何か…を改めて確認することができたような気がする。入院中から、私はがんのメッセンジャーとして何らかの活動をしたいという思いを持っていて、そのためにはがんの専門知識とか医学知識を学ばないと!いまから看護の道へ進む?くらいのことを思っていたんだけど、そういう分野には素晴らしい専門家がたくさんいらっしゃるんだもの、お任せすればいい。私が出来ることは、私にしか伝えられないことを伝え、私が受け止められることをしっかり受け止める役目を担うことだ。
奇しくも、がんになる直前に受けて合格した国家資格キャリアコンサルタントのスキル、つまりカウンセラーとしての学びは、ここにつながっているのかも知れない。悩める人の話を聞く訓練はたくさんしたし、私はそのプロとして、カウンセラーとして活動する資格も得た。あとは、やるだけ。行動に移すだけ。
私が出来ることはきっとある。
この映画が、私の背中を押してくれた。そろそろ具体的に、一歩前に進まなきゃ。
何が出来るか。自分の中で整理しなきゃ。
素晴らしい映画との出会いに感謝♪
◆映画のポイントまとめ◆
がんと「共存」するということ
QOL(生活の質というより、“人生”の質)は人それぞれ違う
がんも人それぞれ違う
だから治療方法もみんな違う
抗がん剤の専門医は「腫瘍内科医」
玉石混合の情報の中から情報を取捨選択する目をもつこと
※→この話もうちょっと聞きたかった…
緩和ケアは最終的なものではない
こころのサポートいろいろあるよ
がん患者だからといって、がん患者らしくしなくていいんだよ
あくまで自分がどう生きたいか、どうありたいか
※新宿での上映は2月22日まで。週末はこの土日が最後…。そのあとは全国を巡回されるそうです。
※新宿は小さな劇場なので整理券制で先着順の入場となります。ぜひ見たい!と言う方は早めの到着を♪